2015.11.06

未承認医療機器の個人輸入制度

皆さん、こんにちは。JOMDDで薬事・品質保証を担当している影山です。
11月に入り一気に冬の気配が漂い、今年も残りわずかとなってまいりました。今年はお盆やシルバーウィークと連休の日取りがよく、海外へ旅行されていた方も多かったのではないでしょうか。
そんな海外旅行の際、そのお土産に化粧品やサプリメント、ドラッグストアなどで購入できる日用品などを持ち帰ろうとしたことはありませんか?今年、トヨタの元役員が海外から違法性のある薬物を不正に持ち込んだという事件が問題になりましたが、旅行先の身近なところに、医薬品や医療機器に分類されるものがあり、その中には輸入できないものも存在しますがご存知でしたでしょうか。

そこで、今回は、海外から日本へ輸入される医薬品、医療機器のうち、治療や診断に用いられる可能性のある「個人用」「医療従事者個人用」のものについてお話したいと思います。

■国内で製造販売される医療機器について
第1回のブログにて医療機器の定義について触れましたが、医療機器と定義されるものにはコンタクトレンズ、体温計やマッサージ器など意外と身近なものが多く含まれています。
これらの医療機器を含む医薬品等は人の生命、健康に直接かかわるものであるため、その名の通り「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)」によってその品質、有効性、安全性が規制されています。そのため、国内で製造販売されている医療機器については厚生労働大臣の承認等の手続きを行う必要があります。これらの医療機器には海外から輸入される医療機器も含まれており、海外から医療機器を輸入して販売しようとする場合も、その品質・有効性・安全性を確認し、有害なものや不良品が国内に流通しないように規制がなされています。

■未承認医療機器輸入の要件
一方で、日本国内には承認された医療機器の他に未承認の医療機器が輸入され、使用されているケースがあります。「医薬品等及び毒劇物輸入監視要領について」(厚生労働省医薬食品局長通知薬食発1117第17号)に列挙されているように、未承認医療機器(毒劇物を含まない)の輸入については下記の場合に限り、必要書類(輸入報告書や商品説明書など)を提出することでその輸入が許可されます。

・ 臨床試験に使用する目的で輸入する場合
・ 治験の検査等に使用される医療機器に、輸入した企業が表示等を行い、治験を実施する別の企業に供給する場合
・ 試験研究等に使用する目的の場合
・ 展示用(学会や展示会など)の場合
・ 個人用の場合
・ 医療従事者個人用の場合
・ 再輸入品・返送品用(修理や不良品交換など)の場合
・ 自家消費用(原料など)の場合

輸入報告書、商品説明書の記載例
関東信越厚生局のWebサイトからダウンロードした様式(個人使用のために輸入の記載方法)に書き方例及び記載方法を入力したものとなります。)

個人用の場合は、輸入報告書、商品説明書の他に下記の書類を添付し提出します。
・処方箋又は服用(使用)指示書
・Invoice(仕入書)のコピー
・航空貨物運送状(AWB)又は船荷証券(B/L)又は税関から届いたお知らせ等のコピー

輸入報告書、商品説明書を作成したら、厚生局へ上記の書類を添付して提出します。書類に問題がなければ、提出した輸入報告書に捺印されたものが「厚生労働省確認済輸入報告書(薬監証明書)」として発給され、輸入の許可がおります。また、規定の数量以内であれば薬監証明の交付を受けることなく、通関時に税関が内容を確認するだけで輸入することができます。

■個人で使用する医療機器の輸入について
医薬品医療機器等法では、保健衛生上の危害の発生及び拡大防止の一つとして医薬品等の販売、貸与、授与を規制しています。販売、貸与、授与のように人から人へ渡ることによって、その流通量が増えることになり、その分だけ影響を及ぼす対象者も増えます。そのため、有効性や安全性を確認する第三者が必要となるということです。
それに対し、個人用とは、販売や譲渡を目的とせず、個人にのみ使用する場合を指し、この条件に限り未承認医療機器の輸入が可能となるのです。つまりは自己責任で輸入し、使用するということです。もちろん、その輸入量や種類には規制や必要手続きがあり、どんなものでも自由に輸入ができるわけではありません。また、上記のコンタクトレンズ、体温計やマッサージ器は医療機器に該当するため、人へのお土産(譲渡)として国内に持ち込むことはできません。

■医療従事者が個人で使用する医療機器の輸入について
医療従事者においては、使用可能範囲が広くなり、輸入した医療機器を下記条件のもと、患者に使用することが許可されています。

・ 治療上緊急性があり
・ 国内に代替品が流通しない場合であって
・ 輸入した医療従事者が自己の責任のもと、自己の患者の診断又は治療に供することを目的とする

ただし、この輸入制度では、すべての責任が医療従事者に課せられているため、万が一その医療機器に不具合が起きたとしても輸入した医療従事者が責任をもって対処しなければなりません。また、未承認医療機器を輸入する際には、その医療機器の品質、有効性、安全性を確認することはもちろん、過去の実績、論文、使用方法に至るまで、医療機器に関する必要な情報すべてを輸入する医療従事者本人が収集し、理解を深める必要があります。有効性や安全性のスクリーニングについても、その労力は計り知れません。そう考えると、患者さんやそのご家族自らも、国内未承認で医療従事者が個人で輸入した医療機器を用いた治療や診断に臨む場合は、その方法についてさらに理解を深め、納得して治療を受けるよう努める必要があるかもしれません。
一方で、昨年話題になったエボラ出血熱など、未だ解明されていない未知の疾病を発症した場合や、東日本大震災で起きた放射能汚染などの突発的な事故に対し、国内未承認の治療・診断医療機器ながら有効性や安全性に期待が持てるものが海外から入手可能な際には、この制度は役立つかもしれません。そもそもこういった万が一を想定しての制度なのかもしれません。

 
最近では、インターネットを介して容易に個人輸入ができることもあり、未承認医薬品・医療機器の輸入が少しずつ増えています。医薬品、医療機器の輸入報告書発給数は平成22年度から25年度の間で1.5倍に増加しています。(医薬品等輸入報告書発給件数 参照)その中にはがんやその他の疾病治療目的で輸入されるものも含まれていますが、個人用、医療従事者個人用共に多くの割合を占める項目が美容効果目的や栄養素補充目的の医薬品、医療機器です。
海外ではいわゆる健康食品、ダイエット食品、美容機器として販売されている製品もあり、医薬品や医療機器に該当するか判断が難しいものもあります。また、海外では医薬品、医療機器に分類されていなくても、医薬品成分が含まれていたり、身体の構造若しくは機能に影響を及ぼす可能性があります。未承認品を使用した健康被害の報告も上がっており、使用者(輸入者)の知識、判断力がより求められるのではないかと思います。
個人輸入した製品では、万が一製品に不具合が起きたり、副作用が起きたりした場合に、承認された医薬品で行われているような国の救済制度を受けることができません。個人輸入制度を用いる限り、使用に関するすべての責任は輸入者本人に帰属するため、たとえ国内で使用することができても、既承認品とは別物として扱われます。生命や健康に直接かかわるものであるからこそ、安易に利用するのではなく、よく考えて利用される制度であってほしいと思います。

それではまた次回。