2016.01.04

データから見る医療機器開発における特許の重要性

あけましておめでとうございます。JOMDDで主に医療機器案件の知財を担当している篠田です。
本来であれば昨年末に公開予定だったのですが、師走ということもあり、公開が遅れてしまいました。

今年は暖冬ということですが、最近ホットな話題と言えば、TBS 『日曜劇場/下町ロケット』ですね。同作は、テレビ不況の今日において最終回視聴率22.3%を超え、異例のヒットをはなちました。その要因として、中小企業である佃製作所が信念を持って困難を乗り越えていく姿が視聴者の共感を呼んでいることもありますが、その裏で繰り広げられる、息を呑むような特許闘争にドラマを感じた方も多いのではないでしょうか。
後半では佃製作所がロケット技術を転用して医療機器の開発に乗り出しましたが、今回は、そんな「医療機器開発における特許」を題材についてお話させていただきます。

■医療機器の特許とは
特許権は、特許出願から20年の存続期間内において、業として、特許発明を独占的に実施することのできる権利です。
ここで医療機器に関する特許発明についての「実施」には、以下のような態様があります;
– 「物の発明」にあっては、その物の生産、使用、譲渡等もしくは輸入または譲渡等の申出をする行為。「物」には、 医療機器や、先の法改正で医療機器に該当することになったプログラムも該当します。
– 「方法の発明」にあっては、その方法の使用をする行為。ただし、医師等が人間を手術,治療又は診断する方法といった医療行為関連発明は、日本では特許の対象とされていません。なお、現在、医療行為を特許の対象としていないことについては多方面から見直しの要請があります。
– 「物を生産する方法の発明」においては、その方法の使用をする行為に加えて、その方法により生産した物の使用、譲渡等もしくは輸入または譲渡等の申出をする行為。例えば、特殊な医療材料を生産する方法の発明においては、その方法により生産した医療材料の使用等も含まれます。

図1_医療機器の特許の態様

 
■世界の医療機器の市場トレンド
第1回のブログ記事でもご紹介したように、全世界における医療機器の市場規模は2013年で3,278億ドル(年成長率約6.5%)となっており、今後も市場の拡大が見込まれています。2013年の市場規模を地域別にみると、米国が38%と最大です。先進諸国では、高齢化に対する医療需要の拡大が見込まれています。一方、2018年にかけてはアジアを中心とする新興国が、急速な人口増と経済成長にともなって、成長のドライバーになると予想されております。

medical_device_market

引用元:経済産業省,「経済産業省における医療機器産業政策について」,平成26年11月,経済産業省商務情報政策局 医療・福祉機器産業室

 
■米国における医療関連特許トレンド
米国特許の数は、2004-2009年の落ち込みはあったものの、1995年から2014年にかけて増加し続けました。分類別に見ると、1.診断(CT、MRI等)、2.血管へ埋め込み可能なフィルター(ステント等)、3.人体の中等へ媒体を導入する装置(カテーテル等)、4.電気治療器等、5.殺菌方法が上位を占めます。

図2_米国における医療関連特許トレンド

プレイヤー別にみると、各社とも2009年以前は年間200件程度が最大でしたが、2010年以降各社とも大きく特許数を伸ばし、概ね2倍以上の水準で推移しています。2000年台前半はMedtronicが首位をキープしておりましたが、2008年ごろから Boston Scientificが台頭しました。その後、Covidienが手術関連の特許を急増させたのですが、最終的にはMedtronicが2015年にCovidienを買収し、Boston Scientificを凌ぐ最大の特許ポートフォリを形成していることが見て取れます。

図3_米国における企業別医療関連特許トレンド

 
■米国における医療機器関連特許の損害賠償
上記のように米国で医療機器関連特許が急増した背景には何があったのでしょうか?
PwCの調査によると、1995年から2014年にわたる特許権侵害訴訟において、平均損害賠償額の全産業平均値は$5.4Mでした。中でも、上位10産業は、以下の表の通りであり、バイオテクノロジー/製薬($21.4M)、通信($19.7M)、医療機器産業($19.4M)の賠償額は、他の産業に比べて顕著に高いことが判明しております。

図4_米国における医療機器関連特許の損害賠償

更に個別のケースをみていきましょう。 以下の表は、1995年以来の損害賠償額の高額トップ10を示します。この中に注目すべき医療機器のケースが3つあります;
1) 2005年には、 Johnson&Johnsonの子会社Cordis社が、ステントに関する特許を侵害されたとして、Medtronic Vascular社を提訴し、$595Mの損害賠償金を獲得しました。
2) 2011年には、Bruce N. Saffran 医師が、薬剤放出ステントに関する特許を侵害されたとして、 Johnson&Johnsonとその子会社Cordis社を提訴し、$482Mの損害賠償金を獲得しました。
3) 2014年には、Masimo社が、血液酸素測定装置に関する特許を侵害されたとして、Philips Electronics社を提訴し、$467Mの損害賠償金を獲得しました。

図5_米国における特許訴訟の損害賠償額トップ10

 
■最後に
以上のことから、米国で医療機器関連特許が急増した背景には、最大の医療機器市場として成長するにつれて、医療機器関連特許の損害賠償が高額化していることが影響していると考えられます。このため、世界を見据えて新規に医療機器を事業化する場合には、日本のみならず米国の特許が必須であるといっても過言ではありません。
翻って、弊社に舞い込んでくる全国の医療現場のニーズやアイディアを見ますと、日本国内の特許を出願しただけで満足されてしまい、所定期間を経過してしまったために、米国の特許を後から取ることが困難なケースが意外と多いです。これは、発明者にとっても、それを必要とする諸外国の医療現場にとっても大変な機会損失であると言えます。
とはいえ、米国で特許を取得するためには、少なくとも数百万円はかかるので、無闇矢鱈に出願すればいいというものでもありません。「下町ロケット」のように、先行特許の穴を見抜いていく必要があるわけです。

弊社としては、医師や弁理士の先生方とともに、このように各国で必要とされる特許対策をしながら、しかし、本筋としては世界中の患者さんのもとに届けるために、新しい医療機器を開発していきたいと考えております。

それではまた次回。