2018.02.22

ヘルスケア業界へのVC投資の動向

みなさん、こんにちは。JOMDDの石倉です。

昨年は、大手医療機器メーカーによるグローバルM&A市場が活況を呈していることについて書きましたが、今回は米国におけるヘルスケア全体へのVC投資のトレンドについてまとめたいと思います。

まず、着目すべきは、Pitchbookデータによると、2017年の第3四半期(7月~9月)における、未上場バイオテック企業への投資額は36億ドルを越え、バイオテック産業が始まって以来の最大規模の投資額を記録しました。

図1 VC-BioPharma-Financings

【図1: VC-Backed BioPharma Financings (US-only)】
引用元: Pitchbook, as of 10.1.2017
https://lifescivc.com/2017/10/vc-backed-biotech-financings-boom-bubble/

 

注目すべき点として、米国における過去10年間の調達額の平均・中間値を見てみると、ディール数の増加よりも、案件毎の調達額が大きく増額したことが分かります。これらの大きくのディールが、2018年にIPOを控えており、2018年はバイオテック産業で大きなIPOイベントが発生することが期待されています。

図2 Size of VC-Backed BioPharma Financings

【図2: Size of VC-Backed BioPharma Financings】
引用元: Pitchbook, as of 10.1.2017
https://lifescivc.com/2017/10/vc-backed-biotech-financings-boom-bubble/

 

個別の領域を見てみると、ニューロサイエンス(神経科学)領域が、活況を呈しているようです。下記のソースでは、米国における直近5年間(2012~2016年)の状況を、その前の過去5年間(2007~2011年)と比較してあり、そのデータによると、投資金額総額は40%増しで成長していました(約10億ドル)。投資ディール数はほぼ一定(~220社)であるため、案件毎の調達額が増額したことがここでも分かります。

 

図5 Neuroscience Venture Funding By Time Period

【図3: Neuroscience Venture Funding By Time Period】
引用元: BIO Industry Analysis. July 2017. “Emerging Therapeutic Company Investment and Deal Trends”
https://www.bio.org/sites/default/files/BIO%20Emerging%20Therapeutic%20Company%20Report%202007-2016.pdf

 

また、領域としては、弊社も出資参画により事業化に着手しているペインマネジメント、パーキンソン病、アルツハイマー型認知症、そしてうつ病と続いています。

 

図6 Neuroscience Venture Funding By Area (2012-2016)

【図4: Neuroscience Venture Funding By Area (2012-2016)】
引用元: BIO Industry Analysis. July 2017. “Emerging Therapeutic Company Investment and Deal Trends”
https://www.bio.org/sites/default/files/BIO%20Emerging%20Therapeutic%20Company%20Report%202007-2016.pdf

 

本ソース元では、この背景の一つとして、科学の発展により、神経科学領域の疾患に対する理解が深まってきたことが挙げられています。事実、NIHのカテゴリー別予算分布データによると、1990年代に神経学分野の研究に対して投下された予算がUS$954M(約1,020億円)だったのに対して、2000年代に入ると、これがUS$8B(約8,550億円)へと増加しています。これは、他の疾患領域よりも急激に成長したエリアで、まさに2000年代への当該領域への先行投資が、2010年以降の実用化・開発案件の急増につながっているとみられています。

https://report.nih.gov/categorical_spending.aspx

この傾向は、昨年9月のAxovant社によるアルツハイマー型認知症患者を対象としたPhaseⅢの失敗にも関わらず、継続して成長を続けると本ソース元では分析されており、今年のJPMorgan Healthcare Conferenceでの各大手製薬企業のコメントを見ても、継続して認知症治療薬への開発をコミットしています。

https://www.ft.com/content/c4e1241e-f731-11e7-88f7-5465a6ce1a00

我が国においても、今月、ノーベル化学賞を受けた島津製作所シニアフェローの田中耕一さんらが開発した高精度の質量分析技術を駆使して、脳内のアミロイドβの蓄積状態を検査する技術の発表がなされ、アルツハイマー型認知症の早期検知・診断への期待が高まってきています。弊社も、現在CNS領域において、日本発グローバル展開のポテンシャルを秘めた医療機器開発を複数進めておりますが、このグローバルのトレンドに負けないよう、引き続き邁進してまいります。