2015.02.19

注目の技術:急成長を遂げる出生前診断(NIPT)市場

みなさん、こんにちは。
JOMDDで経営企画と事業開発全般を担当している石倉です。
まだまだ寒い日々が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。今年の花粉の飛散開始は、例年より早いようですので、早めの対策が必要になりそうです。

さて、今回は、2011年以降米国で急成長を遂げている無侵襲的出生前遺伝学的検査(Non-Invasive Prenatal Genetic Testing: NIPT)を取り上げてみたいと思います。この検査は、2013年4月に日本でも臨床研究として開始され、初年度には7,700件程度の検査が行われています。


■検査の概要
NIPTでは、妊娠10 週の母体からの採血のみで無侵襲的に行うことができ、現状では21トリソミー症候群(ダウン症候群)、18トリソミー症候群、13トリソミー症候群の3つの染色体の数的異常症のみが検査可能となっております。一方で、陽性的中率が高くないため、あくまでも不確定検査という位置づけで確定検査は別途必要となっています。

妊婦母体血漿中には、妊娠10 週ごろまでに胎児細胞由来cell-free DNA が経胎盤的に通過し出現しており、これを調べることで胎児の塩基配列の異常を検査できるようです。
確定診断ではないものの、羊水穿刺や絨毛採取といった侵襲的検査に比べて流産リスクが低いため、現場のニーズも高いようです。


■海外での動向
先行して臨床現場に導入されている米国を始めとするグローバル市場では昨年から大きな動きが起こっています。主に数社の先行プレーヤーに寡占されており、具体的には、シーケノム社(Sequenom)、ベリナタ社(Verinata、大手シーケンサーのIllumina社が買収)、ナテラ社、そしてアリオサ社(Ariosa Diagnostics、昨年末に大手製薬メーカーRoch社が買収)の4社がこれに該当します。

そして最近では、この4社に加えて、中国メーカーであるBGI社、Berry Genomics社が市場参入してきています。

これらの検査は全てLDT(Laboratory Developed Test, 後述)として、薬事規制の範囲外で提供されてきました。LDTとは、アメリカにおいてFDAの規制の範囲外で診断事業を行うことができるルールで、例えば一昨年、ハリウッド女優アンジェリーナ・ジョリーが受けて一躍有名になった乳がん検査もLDTとして提供されています。

Health Net: Laboratory Developed Tests
https://www.hnfs.com/content/hnfs/home/tn/prov/benefits/benefits_a_to_z/laboratory_developed_tests/laboratory_developed_tests_details.html(引用元のリンク切れのため、2018年3月に該当リンクを削除致しました)

さらに、上述のような市場環境が続くとも思われていましたが、昨年以降から上記のNIPT主要4プレーヤーは、これまでLDTとして提供してきたものをIVD(in vitro diagnostic product)として、薬事承認下で提供していく方針を打ち出しています。これにより、診断薬事業で大きなプレゼンスを持つRocheもAriosaを買収する決定をしたとも言われています。このLDTとIVDの話は、昨今のFDA薬事規制において大きな議論になっているテーマですので、また別の機会にご説明したいと思います。

FDA: Overview of IVD Regulation
http://www.fda.gov/MedicalDevices/DeviceRegulationandGuidance/IVDRegulatoryAssistance/ucm123682.htm

また、これら薬事面での変化に加えて、知的財産の面に関しても大きな動きがありました。
主要プレーヤーは長らく特許訴訟下にあったのですが、昨年12月にSequenom社とIllumnina社(Verinataの買収元)がNIPTに関連する特許をすべてパテントプールとして集約することを決めました。これにより、先行した主要プレーヤーたちは、本業を一気に加速化させることが予想されます。


■結びに
このように、一つの新たな検査市場を見ても、薬事面の変化、知的財産の問題といった医療機器開発における重要なマイルストーンが事業の成否に大きく影響していることが分かります。前回の寄稿でもご紹介しましたが、開発早期の段階でコンセプトの証明(POC)、薬事戦略(治験プロトコールのデザイン・販売承認取得)、知的財産戦略を含めたグランドデザインを描く必要があります。
この中でも、新たな薬事規制の変化がもたらす影響について、次回以降にご紹介したいと思います。

それではまた次回。