2015.05.27

早期診断・予防医療の中心となる臨床検査技術の規制強化が始まる

みなさん、こんにちは。
JOMDDで経営企画と事業開発全般を担当している石倉です。
半袖で過ごせる日々が続き、すっかり季節は夏になってきましたね。

さて、以前の投稿で、LDT(Laboratory Developed Test)の勃興に対するFDAの薬事規制が大きな議論になっていることをご紹介させて頂きました。昨今、多種多様な臨床検査が増えてきていることを鑑みて、今日はこのテーマについてさらに詳しく取り扱わせて頂きたいと思います。

まず初めに、臨床現場において診断目的で検査を行う場合は、以下の3つの条件で実施する必要があります。

1. 医療機器として承認された測定機器を用いて、
2. 臨床検査基準を満たしたラボで、
3. 臨床診断法として承認された方法を用いる

2の臨床検査基準については、米国ではCLIA(Clinical Laboratory Improvements Amendments)基準で行うことが必須とされておりますが、日本ではこのCLIAに相当する基準がありません。この米国が設けた基準は、GLP(good laboratory practice)やGMP(Good Manufacturing Practice)同様に、全体のプロセス(検体採取、輸送、保存、前処理、実際の測定、検査結果の解釈と報告、検査後の検体の管理や取扱など)を適正化し、臨床検査の品質と制度を保証することが目的とされています。

3の臨床診断法についても、日米の状況に大きな違いがあります。米国では体外診断薬(IVD、In-Vitro Diagnostics)と自家調整試薬(LDT、Laboratory Developed Test)の2種類があります。 
IVDはFDAが承認した診断薬で、日本の対外診断薬用医薬品に相当し、この区分に属する臨床検査は診断薬企業が製造・販売する臨床検査試薬及び機器で、当局が製造販売を承認した検査試薬・装置のことを言います。
LDTは、診断薬会社や大学の上記CLIA基準を満たしたラボで開発して自家調整された検査法で、原則的には流通は認められておらず、そのため、FDAの承認や認定もありません。一方、日本においてはこれに相当する区分は特に設けられておらず、臨床使用は医療法で定める医師の管理下で使用できる医療技術の一部として解釈されています。

この差異の原因の1つとして、保険償還制度の違いが挙げられます。米国では、ある一定の施設品質基準要件を満たして提供されるLDT検査ならば、民間保険会社が実用的と判断すれば保険償還の対象となります。また、保険償還金額も一律ではなく各保険会社によって異なるため、この判断・カバー範囲によって民間保険自体も差を付けようとします。日本では、一部の検査は医療での実施実績や学会要望で保険医療に昇格するものもあります(例. 悪性腫瘍関連遺伝子検査や遺伝学的検査)が、原則的には薬事承認された体外診断用医薬品のみが流通されます。

過去数年でこのLDTが数多く市場に流通するようになってから、FDAは自身のコントロール下に置くことを主張してきました。昨年、FDAはLDT規制強化のガイダンス案を作成し、一部の検査についてはLDTでもFDAへの届け出を義務付けしました。これは昨年FDAが提案したもっとも大胆な施策変更とも言われており、LDTへの規制強化は不可避と見られています。
今回の規制強化により、CLIA基準に基づいて管理されている11,000を超える検査室は実施される試験を迅速に登録・記録し、有害事象の報告を開始しなければならず、これを正確に定義することは実務的にも非常に困難です。施行後には、市場に流通しているほとんどのLDTにとって、1年から長いものであれば数年間を要する認可プロセスが敷かれる可能性もあります。

今後、この規制強化がどの範囲まで及ぶのかは議論の余地がありますし、日本の検査規制に対してどのような影響があるかは不透明です。一方で、従来の診断・治療を中心としたものから早期検査・予防へと医療の重点がシフトしていく先進国の医療経済の変化を鑑みれば必然的な規制変化なのかもしれません。
将来的に新規の臨床検査技術の海外展開を検討されている医療機器メーカー・体外診断薬メーカー・ベンチャー企業にとっては、ウォッチすべき薬事規制の変化となりそうです。

それではまた次回。